携帯のデザイン-1

 9月に携帯電話の機種変更をした。通算で5台目。前の機種のジョグダイアルの優れた操作性は気に入っていたが、いかんせん重くて厚かった。それと、さほど使わなかったがカメラ機能も不調になった。ということで、今回は、ほどほどに薄いことが第一の選択ポイント。
 新機種は、まず画面表示が明るくより見やすくなり、その点は満足。優先順位のさほど高くなかったカメラ機能は、予想外の進歩。前機種のカメラ機能はおもちゃレベルだったが、今回の300万画素はかなり使える。(ちなみに前機種は130万画素。これだけあれば実用にはなるはずだが、実際には写真としてはギリギリのレベルだった)
*写真は新機種での試し撮り。渋谷109前

 他にも“音楽携帯”“ステレオ再生”(小さな携帯からステレオ音、さらにはサラウンド再生まであり、これには驚いた)等々、ますます機能の集約化する様を見るようだ。購入する際には“50才以上割引き”もあり、つい背中を押される羽目にもなったが、だいたいのところは「良」である。

が、不満ももちろんある。
 最大の不満点はボタン操作部分の表示問題。幸い?携帯メールはほとんど使わないので、ボタンを頻繁に押すわけではないが、それでも様々な入力の際には使わざるを得ない。
 ここで問題となるのが数字・アルファベット・かな文字の見やすさ。この点が今回の機種はかなり最悪に近い。先ず、色。機種カラーは深い紺である。この紺を選んだのが間違いの元とも言えるが(実際に店頭でも「白」などの方が見やすかった)、ボタンも地色も同じ紺のため、ボタンの境目が見えにくい。これは使い込むうちになんとか慣れるとして、さらに問題なのが書体の問題。私の仕事はデザインである。実は今回の機種に使われている欧文書体は、仕事の上でも使い方を間違えると問題の起きやすい書体、と常日頃述べてきたものだ。

 “Euro Style”という名前のこの書体は、かなり幅広く使われている。とくにクルマのメーター類や家電製品の表示など、プロダクトデザイン関係では良く見かけるものである。が、私自身は、より正確な表示が必要な場合には絶対に使わない書体である。問題はいろいろあるが、その最たる例が 「6」「8」「9」の区別のしにくさである。基本的に方形の枠内に各文字を当てはめるという造形の原理に則っているため、とくにこの3文字については一瞬での区別が難しい。「3」「5」にも同じ問題がある。ともかく、この書体は内外を問わず、工業製品に多く使われているが、プロダクトデザイナーのお気に入りなのであろうか?

 クルマを変えるときなど、全体のスタイルなどはもちろん気になるが、メーター類の表示がこの書体だと、一瞬で気分が萎えてしまう。それほど私にとっては気に入らない書体のひとつなのに、なぜか今回の携帯機種変更では目をつぶってしまった。この点は不覚である。

 さらに、その見にくさに追い打ちをかけているのが、書体の色使い。「紺」に合わせて、やや青みがかったグレーであるが、これが紺との明度差が少ないため、さらに見にくくなっている。
 さらに、さらに、もうひとついえば、書体の細さ。一般的には分かりにくいと思うが、和文・欧文を問わず、ひとつの書体には「細い」ものから「太い」ものまで、いくつかの太さ違いがある。「細ゴシック体、中ゴシック体、太ゴシック体」といったものである。欧文の場合は「ライト、ミディアム、ボールド」などと分かれている。書体選びには様々なセオリーやルールがあり、デザイナーはそれこそ経験値のすべてを賭けて、その選択をするわけで、この「太さ・細さの選択」も腕の見せ所である。

 で、今回の携帯であるが「いちばん細い(ライト)」なものを使っている。ボタンひとつのサイズは左右約11ミリ・天地約5ミリ。その狭いスペースに数字・かな文字・アルファベットを配置するわけだから、必然的に太い書体では下手をすると文字がつぶれてしまうおそれもある。そこで検討・調整の結果、細いものが使われるのだが、いざ見る側の立場になってみると、これが実に見にくく不親切。
 このあたりの問題は、老眼鏡を使わないと貰った名刺の電話番号も読めない中高年以上の悩みかもしれない。そういった方々には「らくに使える機種」もあります、というメーカーの声も聞こえてきそうだが、開発設計・デザインに関わる立場の方には、もう少しの配慮と愛情を注いでもらいたいと思うのである。

 とは言いつつ、目覚まし用のアラーム音にはプリインストールされている“子犬の鳴き声”(これがけっこう可愛い)を設定してみたり、お祭りで孫と一緒にすくったメダカを撮影してみたり、と、ぶつぶつ言いながらも、楽しんで使っているのでもあるが。。。

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